2ntブログ

土下座

支配と服従。絶対的支配権を行使する主人と、服従するしか生きる術のない子飼いと。そういう立場があたりまえに存在する架空世界のお話です。飼われる人間と飼う人間との愛憎劇をお楽しみください。そして、時々は泣いてね。行き場を失った僕らの魂のために。

2024/04123456789101112131415161718192021222324252627282930312024/06

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

洗浄初物の続きです。

FC2ブログランキング




「自分で思いつく最上の挨拶をしろ」


恥ずかしい話だけど、この時の僕にはこういう言葉がまだ難しかった。
「さいじょう?」

思わずお客の顔をじっと見てしまった僕に、お客の口元が少し緩んだ。
さっきより心なしか優しくなったように感じられる声で言い直してくれた。
それは意外にもインターホンごしにイメージした顔とは全然違う、
兄格とそんなにかわらないような年の若いお兄さんにも見えた。

「いちばん丁寧だと思う挨拶をしてみなさい」


僕は、おそるおそる膝をついた。
それから少しして、お客の次を待っているような様子に考えて
前に見たことのある光景を思い出して手をついた。
でも・・・何て言えばいいんだろう・・・・・・?

「い、いらっしゃいませ」

僕には他に何も思いつく言葉がなかった。
手をついて頭を下げたまま、そこからどうしたらいいかもわからない。
お客が何か言ってくれないと動くに動けない。
それなのにお客は何を言ってくれるでなく
かと言って更に怒るでもなく、僕をそのままにして
サイドテーブルに置かれた軽食に手を出しているようだった。






よく考えてみたら、これが僕の生まれて初めての土下座。
(これ、ずーーーっと後になってからトオルさんが知ってなぜだか喜んでた)
そして僕はこの時初めて、土下座って実はしんどいんだってことを知った。

身動きもせず、床に手と頭をついたままでいると、首の後ろが痺れてくる。
足はもちろん、腰や背中も痛くなってくる。横腹もねじれたみたいに痛い。
腰や背中や首の後ろの痺れがだんだんあがってきて、頭痛がしてくる。
体を起こして首をぐるぐると回したくなる衝動をこらえ続けていると
頭の中まで痺れた感じになって、ぶーんぶーんと頭痛が揺れ動く感じがする。
肩が痛くて吐き気がしてきて・・・僕は耐えられなくなってそっと顔をあげてみた。
そして、思いっきり後悔した。
顔をあげたとたん、お客と目があってしまったのだ・・・。

「それで終わりか?」

「す、すみません」

慌ててもう一度頭を下げる僕と、くすくすと笑い出すお客。

「満足させたと思うのか?その挨拶で?」

「う・・・わ、わかりません・・・」


僕は泣き出してしまった。
だって、もうどうしたらいいのかわからない。
何を求められてるのかわかんないし。
このお客を怒らせたら兄格に怒られるのに。
でもどうやったら満足してもらえるのかわからない。
だけど体はもう限界。辛くてしんどい。息するのも苦しい。
僕には泣くことしか、できなかった。


FC2ブログランキング




この記事へのコメント
URL:
Comment:
Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可する
 
この記事のトラックバックURL
http://petnokimoti.blog.2nt.com/tb.php/204-59eb6523
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
この記事へのトラックバック
 / Template by パソコン 初心者ガイド